【NIKKE】Good World【Part 3】

前回の続きですヾ(・ω・*)

スポンサーリンク

1通目の手紙:A

「ここがデパートですか…!キラキラしていますね~」

ロイヤルロードへ到着したシラツルは、辺りをしきりに見回しながら、少し興奮した様子で話し続けます。

彼女にとっては、見るものすべてが珍しいようでした。

「わぁ~…こんな広い空間に、お店がびっしり並んでいるなんて」 「あらら、どうしましょう…。あんな大胆なお洋服まで飾ってあります~」

シラツルはそう言うと、困ったように微笑みます。

そして次に目を留めたのは、色鮮やかな花々でした。

「……まあ!おともだち、あれを見てください!お花が売っています〜! 造花でしょうか?」

さすがに見ていられなくなった指揮官は、そっと宥めるように声をかけます。

「落ち着いてくれ…」
「あっ、ごめんなさい。つい、はしゃいでしまいました」

そう言って、シラツルは少し恥ずかしそうに頬を赤らめました。
そんな彼女を不思議に思い、指揮官は尋ねます。

「デパートに来たのも初めてか?」

その質問を受けたシラツルは、昔を懐かしむように優しく答えました。

「はい。私がアークに来た頃は、こんなに大きな建物はありませんでした。大きな建物と言えば、たいていは中央政府関連の建物で…」

そこまで言うと、シラツルは少し言葉を止めます。

そして、考え直すように小さく首を傾げました。

「…う~ん。今のはちょっと語弊があるかもしれません。確かあの頃も、契約の仕事であちこち駆け回っていたので…。単にアークを見て回る時間がなかったから、 見たことがなかっただけかもしれませんね」

そう言って、彼女はまた柔らかく微笑みます。

「初めてアークに来た頃は…。戦争の真っ只中で、こんな雰囲気ではなかったので。なのでちょっと、不思議な気分です〜」

シラツルは、買い物を終えて帰路につく人々を静かに見つめていました。

──楽しそうに買い物袋を抱える人。
──欲しいものが見つからなかったと不満を漏らす人。

そんな人々が、次々と彼女の前を通り過ぎていきます。

その横顔は、何かを慈しむようであり、同時に懐かしんでいるようにも見えました。

彼女がそんな表情を浮かべるたび、水色と青のグラデーションが入った耳飾りが揺れ、髪飾りがさらさらと小さな音を立てます。

「本当に…すっかり変わったんですね」

そう呟いたあと、シラツルは満面の笑みを浮かべました。

「ふふ、見ているだけで嬉しくなります」

指揮官は、そんな彼女の姿に思わず微笑みます。
そして、ふと思い出したように尋ねました。

「そうだ、店の名前をもう一度教えてくれるか?」
「あっ、はい。『アンダーグレイス』というお店です。確か、カフェだった気がするんですが…」
「どれどれ…」

指揮官は携帯端末を取り出し、店名を検索します。

「あった、地下1階のようだな。こっちから行こう」
「ええっ、もう見つけたんですか?」

シラツルは驚いたように目を見開きましたが、すぐにまた穏やかな表情へ戻りました。

「ふふ、頼もしいですね~。引き続き、おともだちについていきますね〜」

───地下1階『アンダーグレイス』前

指揮官は店の前で足を止めます。

「ここのようだな」
「アンダーグレイス…確かにここのようですね…!」

シラツルは手帳のメモと店名を見比べながら、嬉しくそうに微笑みました。

「おともだちは、本当に道に詳しいんですね。すごいです〜!」
「…ありがとう」

指揮官は、素直に喜ぶシラツルを見ていると、“これくらい当然だ”とは言えませんでした。 照れ隠しのように頭を掻きながら、気になっていたことを尋ねます。

「ところで、本当に私も同席していいのか?外で待っていても構わないが…」
「え?本当に大丈夫ですよ〜」

気を遣う指揮官とは対照的に、シラツルは何でもないことのように答えました。

「さっきも言ったでしょう?手紙を届けに来ただけなんですから。手紙を受け取る子たちも、ちっとも気にしないでしょうし…。手紙の配達を希望されていた契約者様も、 隠れて渡す必要はないと言っていたので。同席しても問題ありませんよ~」

シラツルはそう説明しますが、指揮官はある言葉に引っかかりを覚えます。

「ある契約者?これは契約に関する仕事なのか?」

「ええ、そうです。ずっと昔に結んだ『契約』に従って、依頼された用件をこなしているところなんです」

そこまで言うと、シラツルは少し申し訳なさそうに続けました。

「むしろ、手紙を渡している間は暇になると思いますが…。おともだちは、それでもよろしいですか?」

シラツルは心配そうに指揮官の顔を見つめます。

「ああ、それは問題ない」

心配そうにこちらを見つめる彼女に、指揮官は小さく頷きます。

「ふふ、じゃあ、みんなオッケーということで~。さっそく、入りましょうか?」
「ああ」

チリン──

カフェへ入ると、ホットコーヒーの芳ばしい香りが店内いっぱいに漂っていました。

「わあ~、コーヒーのいい香り」
「ああ、本当だな」

香りに包まれ、指揮官も自然と肩の力が抜けていくのを感じました。

すると、店の奥から中年の女性の声が聞こえてきます。

「ふふ、ありがとうございます。若い方から褒められると、嬉しくなりますね」

女性は二人をテーブル席へ案内すると、メニューを差し出しました。

「メニューはこちらです。ゆっくりご覧になって下さい」

ですが、シラツルはメニューではなく、店員の女性をじっと見つめています。

「むむむ…」
「お客様…?」
「あの~…あなたが『サラ』ですか?」

シラツルは微笑みながら尋ねました。

「えっ?」

女性──サラは驚いたように目を見開き、シラツルを見つめ返します。

「そうですが、どちら様で…」
「こうしてお目にかかるのは初めてですね。シラツルと申します」

サラは目の前に映る、シラツルの顔を信じられないというように見ます。

「えっ…シラツル先生…?」
「ふふ、そうです。お会いできて嬉しいです~」

シラツルは、サラへ満面の笑みを向けます。
そして、そのまま穏やかに続けました。

「契約に従い『あの方』からの手紙を届けに来ました」

1通目の手紙:B

コトッ…

サラは静かに、二人分のホットコーヒーをテーブルへ置きました。

「あら、ありがとうございます~」
「私にまで…ありがとうございます」

サラは二人の顔を見ながら、穏やかに微笑みます。

「いえいえ。先生のお連れの方なんですから、 当然です」

そう言って、サラは静かに向かい側の席へ腰を下ろしました。

すると、シラツルがゆっくりと話し始めます。

「ずっと手紙でのやり取りだったので、 こうしてお会いするのは初めてですね。急に訪ねてきたから、驚かせてしまいましたよね?」
「大丈夫です」

サラは自分の少し荒れた手へ視線を落とし、それからシラツルを見つめて静かに答えました。

「時期的にそろそろなんじゃないかと思っていたら、ちょうどいらっしゃったので。先生こそ、私が思ったよりも若くて驚かれたんじゃありませんか?」

そう言って、サラは少し照れたようにはにかみます。

「ええ、ビックリしました~。手紙のやり取りだけでも何十年も経っているのに、 こんなに若かったなんて~」
「ふふ、エターナルライフを早めに打ち始めたので」

2人の会話を聞きながら、指揮官は思わず呟きました。

「何十年も…」

シラツルはサラから指揮官へ視線を移し、補足するように話します。

「あら、ごめんなさい。紹介もしないまま話し始めてしまいましたね」

正式に、再びサラへ視線を向けました。

「こちらはサラ。私の契約者様が運営している『財団』と契約しているおともだちです」

指揮官は不思議そうに首を傾げ、呟きます。

「財団?」

指揮官は不思議そうに首を傾げます。

すると、シラツルの代わりにサラが口を開きました。

「はい。先生のおっしゃる通り…。アークへ移住した時、身寄りのない孤児として 1人でアークの地に足を踏入れた私は、成人するまで『財団』から支援を受ける代わりに、ある契約を結びました」

サラは静かにシラツルへ視線を向けます。

「あの方の代理として財団を管理するシラツル先生に、毎年、アークの移り変わりを記録した手紙を送るという契約を」

その言葉を聞き、指揮官の目が大きく見開かれました。

「!!アークに移住してから…?」

アークに人類が移住したのは、およそ100年前。

指揮官の脳裏に、その数字が浮かびます。

(では、目の前にいるサラは…)

「それは、つまり…」

しかし、シラツルが優しく言葉を挟みました。

「ふふ、レディに年齢を聞くものではありませんよ。今、口にしようとしたことは胸にしまっておきましょうね~ いいですね?」
「あ、ああ…」

指揮官は視線をテーブルのコーヒーへ落とします。

少なくとも、自分の知らない歴史を知る人物が、今目の前にいるのです。

「…だから、見た目が若くて驚いたかとおっしゃっていたのですね」 「ふふ、そうです」

サラは悪戯っぽく微笑みました。

「これまで一度も会うことがないまま、 ずっと手紙だけのやり取りでしたから」

そこまで言うと、サラの笑みがふっと消えます。

「でも…」

サラは寂しそうにシラツルを見つめ、静かに続けました。

「…それも、今日が最後のようですね」
「…はい、その通りです」

シラツルも静かにサラを見つめ返します。

「契約が終了したので、契約者様が残したこの『手紙』を直接届けに来ました」

そう言って、シラツルは優しく手紙を差し出しました。

サラは震える手でそれを受け取ると、小さく呟きます。

「…そうですか」

しばらくの間、手紙を見つめたあと、意を購入したように口を開きました。

「あの方が残した手紙…。よろしければ…ここで読んでもいいですか?」

今にも泣き出しそうなサラへ、シラツルは柔らかく微笑みます。

「もちろんです」

サラは震える手で、ゆっくりと封を開きました。

カサッ……

小さな紙の擦れる音だけが、静かなカフェに響きます。

「ああ…あああっ…!」

サラは手紙を読み始めると、手で顔を覆いながら大粒の涙を流しはじめました。

「!!」

指揮官は慌ててティッシュを差し出そうとします。

しかし、シラツルはそっと首を横に振り、代わりに優しく指揮官の背中をさすりました。

そして静かに、コーヒーへ口をつけます。

「うう…! ずっと…ずっと、お会いしたかったのに…結局…。結局…!」

サラは嗚咽混じりに言葉を紡ぎました。

──恋しさと感謝、そして悲しみが入り混じった言葉を。

指揮官も静かにコーヒーを口に運びます。

それからしばらくの間。

カフェには、サラのすすり泣く声だけが静かに響いていました。

──しばらくして

サラは涙の跡が残る赤い目のまま、シラツルと指揮官を見つめます。

「…お待たせしました」

もう一度、指先で涙を拭うと、恥ずかしそうに笑いました。

「ふふっ…この年になってこんなに泣いたのは、久しぶりです。見苦しいところをお見せして、ごめんなさい」

「…いえ、そんなことは」

指揮官が気遣うように答えると、シラツルも優しく微笑みます。

「見苦しいだなんて。悲しい時に涙があふれてしまうのは、 当たり前のことですよ」

サラは二人を見て、少しだけ笑みを浮かべました。

「ありがとうございます、先生。静かに待っていてくださったことも、この手紙を届けに来てくださったことも」

そして、少し寂しそうに俯きます。

「…もう、手紙を書くことはないんですね。少し、寂しくなりそうです」
「…私もです」

シラツルは静かな声で答えました。

「毎年来ていた手紙がもう来ないと思うと、 寂しいですね」

まだ涙の跡が残るサラへ、シラツルは穏やかに微笑みます。

「今まで、お疲れさまでした」
「…はい、先生も、今までお疲れさまでした」

シラツルはゆっくり息を吸い、静かに口を開きました。

「では…契約終了の手続きを進めますね」

「サラ」

澄んだシラツルの声が、静かなカフェに響きます。

「契約に従い、最後に一つ質問をいたします。あなたから見て…アークは前よりも、いい場所になりましたか?」

さらりと髪飾りが揺れました。

サラはすぐには答えず、少し言葉を選ぶような間を置きます。

「正直に答えても?」

言いづらそうに、シラツルを見つめました。

「はい。契約者様は、 正直な答えを希望しています」

シラツルは真剣な眼差しで答えます。

「…いいえ」

サラは小さく首を振りました。

そして、静かに理由を語り始めます。

「やり方が変わっただけで、少しも良くなってはいません」

指揮官もシラツルも、何も言わずにその言葉を聞いていました。

「もちろん、以前とは比べものにならないほど人々の生活は改善しました。戦災孤児だった私が、こうしてロイヤルロードでカフェを開き…。エターナルライフのおかげで、若さを保つこともできているんですから」

「でも…人々の心は、いまだに病んだままです」

サラは静かに、しかし確かな怒りを滲ませながら続けました。

「いえ、むしろ方向が違うだけで、前よりも悪化していると言えるでしょう。 今でも地上で戦闘が起きていることを忘れ、 平和ボケして…。 この暮らしがあるのは誰のおかげなのかも忘れたまま、“ニケフォビア”とかいう信じられない言葉までできる始末」

「今はプリティーやテトラライン、 そして有名な戦闘部隊のおかげで、第二次地上奪還戦の時よりもニケの人権はかなり回復しました。 それでも、アークで事件が起こるたびに…人々は、すべての責任をニケに押しつけようとしています」

「平和が当たり前になったせいで、ありがたみを忘れてしまったんです」

サラは一度視線を落とし、小さく息を吐きます。

「まるで…財団に所属していたたくさんの子どもたちが、援助の内容に満足できず、財団のお金を奪おうとバカげたことをして…先生から、制裁を受けたように」

「…制裁?」

それまで黙っていた指揮官が、思わず口を開きました。

シラツルは少しだけ沈黙したあと、静かに一言だけ返します。

「そうでしたね」

サラは申し訳なさそうに俯きました。

「最後にお会いできたのに、ネガティブな話ばかりで申し訳ありませんが、私は、この社会が良くなったとは少しも思いません。…これが私の意見です」

サラの話を聞き終えたシラツルは、穏やかに微笑みました。

「ご意見、感謝いたします。最後まで真摯に契約に向き合ってくださり、 ありがとうございました。おともだちの人生が、いつまでも平穏でありますように」

さらり、とシラツルの髪が揺れ、カフェの光を柔らかく反射します。

「…今までありがとうございました、先生」

サラは改めて、ゆっくりと深く頭を下げました。

スポンサーリンク