【あくねこ】ベビードールのシンデレラ【SS】ラト編

こんにちわ(。・ω・)ノ゙ゆいなです♪
今日は悪魔執事と黒い猫のSS ラトをまたいじってみました(/ω\)

俗っぽいモノが含まれますので、苦手な方は避けて下さい。

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窓のない部屋。小さな箱の中の自由

──カランカランっ・・・──

店のドアに付けてあった鐘の音が鳴る。

その音は店にお客さんが来た事を知らせ、柚月は横になっていたが長年の経験から、ぼんやりと身体を起こし店に響く放送を聞いていた。

『2番シート 凛さん 2番シート 凛さん。素敵なニッコリ 1名様 ご案内』

男性の声で放送が入るとパタパタと廊下を忙しそうに歩き回る音が聞こえる。
凛はこの店の看板娘であり、一日に何人もの男性の相手をする。

ニッコリと言うのは指名の事で、柚月の仕事ではないという事が分かり、また静かに横になった。

夜だけの仕事、窓のない部屋。精神衛生上は良くない事は理解していたが、結局抜け出せずにいた。

『・・・頭が痛い・・・』

柚月はテーブルの下に置いてあった体温計を手に取ると、熱を測る。

テーブルの下も一般の仕事とは違い、行為の必要なモノ、消毒などが揃えられている。

ピピピッ・・・。

体温計が体温を測り終わった事を告げる。

『36.2℃・・・平熱 問題なし』

こんな時熱があったら・・・誰かは優しくしてくれるのだろうか?病院に連れて行ってくれる人は?傍にいてくれる人は・・・?

と考えても結局、自分しかいない事は最初から分かっている事なので、考えても虚しくなるだけだ。

そう思い柚月は体温計を消毒して元の場所に戻した。

持参をしていた薬のポーチを開けると、中にはごちゃごちゃと大量の痛み止めと胃薬、精神安定剤、その他色んな薬が入っているが慣れた手つきで痛み止めだけを手に取り飲み物と共に口に含んだ。

『早く・・・痛くなくなればいいんだけど・・・』

───・・・

その日の仕事が終わると、働いた分だけのお金を手渡される。

柚月が働いた分は4500円。

『今日は暇でしたね』
男性の店員がそう言いながら柚月にお金を手渡す。
『平日ですからぁ♪』
実際柚月は本来こんなキャラでではない。それは本人が一番理解していた。

『まぁ、明日忙しくなると思うんで。柚さん頑張って下さいね?』
『分かりましたぁ♪そろそろ休みますね?おやすみなさい』
『おやすみなさい』

柚月の名前はここでは『柚』だった。
頑張れと言われたけど・・・。

これ以上、柚月は何を頑張ればいいのか分からなかった。

──私は凛さんにはなれない。

夜は時計の秒針が友達だ。
コツコツと刻む音。この部屋には窓がないし、深く息を吸うと部屋は埃ぽいのが分かる。

それでも、雨風がしのげる場所があるのはまだいいほうだ・・・と思って暗闇の中寝返りを打つ。

柚月がいじる携帯の光だけが暗闇を照らしていた。

流行りの曲や、理解できる歌詞は嫌いだった。

その日は、水の音が聞きたくなって柚月は水の音を再生した。鳥の鳴く声、川の流れる音、風で揺れる木々の音。周りにあるはずなのに、小さな箱の中でしか聞けない音。

こんな中で普通に・・・生活をしてみたかったな・・・眠気が襲いうとうとし始めた柚月は持っていた携帯が自分の手から滑り落ちる感覚を鈍く感じていた。

迷子とピンク色の長い髪

ぴとんっ・・・ぴとんっ・・・

柚月は手に当たる雫の冷たさと、音で眉間に皺を寄せてゆっくりと目を開く。

『!?』

目の前にある風景がいつもいる部屋ではない事は一瞬で分かり、横になっていた身体を急いで起こす。

『ここ何処!?』

周りには沢山の木が生い茂っていて、手には湿った土が付いている。

『夢の中・・・?じゃないような・・・』

湿った土の香りはリアルに感じるし、肌を撫でる風は肌寒い。

『・・・さむっ・・・・と言うか・・・この格好で・・・外!?』

柚月は仕事で着ていたベビードール1着に、素足と言う格好だ。

仕方なく素足でその場から立つと、足裏が痛むのを我慢してあたりを歩き始めた。

どのくらい歩いただろう?何時間?それとも何分?

土の中にある石が足の裏を刺し痛みが走り、その度に歩みを止めていた。

『あれあれっ?そこのお嬢さん。こんな時間に何をしているんですか?』

柚月は声がした方を見るとピンクの長い髪を三つ編みをした男性がいた。

『えっ・・と・・・あの・・・』
『迷子ですか?』
『その・・・なんと言うか・・・』

柚月は恥ずかしそうに、ベビードールの裾を持ち出来るだけ引き伸ばしながら話す。
こんな姿をして外でフラフラしていたら変質者にしか見えないと思っていたからだ。

『ふむ・・・迷子ですね。にしても・・・痛くないんですか?』
『?』
『足が血だらけですよ?』
『あ・・・』

柚月は改めて自分の足を見ると泥に混ざって紅い血液が付着している事を知った。

どれだけ歩いたのか分からないが、痛みを我慢していたのは間違いなかった。

『とりあえず、傷口は洗わないとばい菌が入って、最終的には死んでしまいます』
『死ぬって・・・大げさなんじゃ?』
『そうですか?人間の身体なんて頑丈な様に見えて、結構、些細な事で簡単に壊れますよ?』
そう言ったピンク色の髪をした男性は楽しそうだ。
『・・・そう・・・かもね』

ここは何処なんだろう?と歩き続けた結果がこれだ。

『とりあえず、おんぶします。どうぞ』

そういって、男性はしゃがむと柚月に背中を向けた。

『!?どう言う・・・』
『だって、痛いでしょう?歩くと足に負担がかかります。そして、多分体力も限界なのではないでしょうか?私の事でしたら、お気になさらず。それなりに体力がありますので・・・』

確かに疲れてはいるが・・・全く歩けない訳ではなかったし、柚月は人に頼るのが苦手だった。

『それよりも・・・ここは何処なのかな?』
柚月は男性にずっと疑問に思っていた事を聞いてみた。
『それは、いずれ分かると思います』

男性はそう言うと柚月の近くに足早に歩いてきて、軽々と抱きかかえる。

『あの・・・何して・・・』
『こうでもしないと、貴女の足が地面に触れたままになってしまいます。あ、そうだ。自己紹介がまだでしたね。私はラトと言います。初対面の女性に対して大変失礼な事をしていますが、お許しください』

そう言ってラトはクスクス笑う。

香水の香りと慰み者

───湖のほとり──

ラトと名乗った男性は湖まで柚月を連れてくると、静かに下ろして足を洗ってくれようとする。

『あ・・・。大丈夫だよ?自分で出来るから・・・』
『そうですか』

柚月は静かに湖に足を浸して足を洗おうとするが、しみる様でなかなかその行動がすすまなかった。

『やっぱり手伝いましょうか?』
『痛っ・・・だ・・・大丈夫・・・っ』
『んー・・・個人的には一気に洗った方が痛みは少ないと思いますけど・・・。人それぞれやり方は違いますからね』

そう言ってラトは柚月の行動を静かに見ていた。

包帯だらけのラトと名乗った人物は不思議な人だなと柚月は思っていた。

吸い込まれそうな水色の瞳は嘘なんかすぐ見抜かれてしまいそうで、サラサラのピンクの髪は絹糸の様に艶やかで繊細であった。

お客さんで来てくれたとしても、柚月は謙遜して接してしまうクラスの人だ。

『ねぇ、ラトさん・・・?』
『ラトでいいですよ?綺麗なお嬢さん』
『あ・・・名前。私は・・・柚って言うの』

一瞬本当の本当の名前を話そうかなと思った柚月であったが、職業が職業なだけに柚と名乗る事にした。

『では、柚さん。コレを持っていてください』
ラトは柚の肩に自分の上着を優しくかける。
『え・・・?』
『水浴びをしてきます。それに、その恰好だと寒いでしょう?』

ふわっとかけられた上着は女性用の甘い香水の香りがした。

『?』

水浴び・・・香水の香り・・・。

・・・あぁ、そう言う事ね・・・柚はなんとなくそれを理解した。


月が出ていない星空だった。

いつだったか、手を伸ばせば星に手が届くんじゃないかな?なんて本気で考えていた時期があった。もう、届かないのは知ってるし、手を伸ばそうとも思わない。柚月はぼんやりとラトを見ながらそんな事を思っていた。

『おや?どうしたんですか?柚さん。私の方を見ていたみたいですけど』
『ううん?上着大丈夫だから、身体水浴びが終わったら着てね?』
『ふーん?どうして?』
『どうして?と言われても・・・』
『あ・・・もしかして。何か勘違いしてませんか?』

ラトは柚月の近くに座ると、柚月にかかっている自分の上着の香りを嗅いだ。

『これも洗わないとダメですね』
『いや、そう言うんじゃなくて・・・。私そう言うのに偏見ないから。気にしないで』
『気にしている訳ではないです』
『あ・・・そうなんだ』
『ただの仕事ですから』

そう言った、ラトは目を細めて水面に映っている星を見ている様だった。

柚月はそんなラトの顔を見て、自分もそんな顔をしていたのかな?と思っていた。

『えっと・・・』
『はい。なんでしょう?』

男性と話すのはそれなりに慣れていると思っていた柚月であったが、相手からの情報がないと全然話す言葉が見つからなかった。

もともとは人見知りであったし、ラトの風貌を見る限り、自分の住んでいた世界とは違うリアルな夢だとしか考えられなかった。

真面目にかける言葉を探していた柚月に、続けて静かにラトが話し出す。

『私は、貴人のお相手をしていました』
『貴人の相手?』

ラトの濡れた髪から、水の雫が珠を作って一滴、また一滴とポロポロと下に零れ落ちていく。

『私は慰み者ですから。それに拒否権はありません』
『・・・』
『寂しいと思っている人のして欲しい事、やって欲しい事を何でもしてあげると言う仕事です』
『・・・そっか。感情が切り離せたら・・・楽なのかもしれないね』

自らを"慰み者"と言ったラトに自分を重ね、柚月は湖から洗えた足を出すと傷口の状態を見ていた。

所々深い傷があって、血液が出てきては水と混ざり合って薄い色に変わって、やがて溶血し透明になって消えていく。

『ねぇ?柚さん。なんで柚さんは歩いてたのでしょう?立った瞬間に素足では痛いと分かったハズです。それでも、柚さんは歩き続けて今の状況がある訳です。もし、歩かなければ傷もそんなに付く事はなかったと思いますよ』

『そんな事言っても、ココが何処だか分からないし・・・一般的にはそうなんじゃないのかな?』

『分からなかったら、立ち上がって人を探したり、歩くのが当然だと?大声をだして叫ぶ人、泣きわめく人・・・他にも色々いますよ?柚さんはとても静かな人ですね』

ラトはずっと柚月の方をみている。
人に顔を見られるのは好きではなかった柚月はその視線に気づくと、顔を逸らした。

『あまり・・・見ないでくれる?そう言うの慣れてなくて・・・』
『柚さんは綺麗ですよ?心も身体も』
『・・・っ』

それを聞いた柚月は、ギュっと手を強く握ると今までの声とは違い少し低めの声で話し出した。

『ラトに何が分かるって言うの?会ったばかりで・・・』
『おや?怒らせてしまいましたか?本当の事を言っただけなのですが・・・』
『身体が綺麗って何が?毎晩毎晩、私は身体を売ってお金をもらってるのに?』

柚月は内心、自分自身にびっくりしていた。
こんな風に、人の一言でまだ怒れたんだ・・・と。

『困りましたね。現時点で柚さんにご機嫌を直してもらう術が、自分には分かりません』
『別にそんなことしなくてもいいよ』
『あ。そうだ。もしよかったら、手合わせしませんか?慰み者の私と、好きでもない男と寝てお金をもらっている柚さんで。お互いに、偽りの愛を取り扱っている同士で仲良くできると思います』
『えっ?』
『きっと、楽しいと思いますよ?』
ラトが喉の奥で笑う。

──世の中がくだらなければ、夢の中もくだらない。

そんな提案をしたラトを柚月はにらみつける様に見ていた。

人間と言う生物

『では、最初はなにからしましょうか?』

ラトは柚月の事を優しく抱き寄せた。

『っ・・・なんの勝負なのそれ?』
『勝ち負けに興味はありません。ただの手合わせですから。お互いのぬくもりが分かれば、それでイイのではないでしょうか?』

お互いのぬくもり?
柚月は結局行為か?と考えたが、どうもそんな様子はない。

『・・・こうしているだけ?』
『はい。満足いただけなければ他のコトもできますけど?』

ラトは柚月を見ると含みのある笑いをする。

『いや、コレでいいと思う』
『奇遇ですね。私もそう思います』

柚月の冷たくなった身体に、ラトの心地の良い温かさが伝わってくる。

仕事では知らない男性に触られるのも嫌だったし、さっさと早く終わってほしいと考えていた。でも、この時は違っていた。

『ねぇ。柚さん。寒くないですか?』
『ラトが温かいから大丈夫』
『機嫌はなおりましたか?無礼な事を言ってごめんね』
『私も・・・ごめん・・・』

優しい風が吹いて、さらさらと森の木々が揺らめく音がする。

同時に柚月の髪が乱れると、ラトはそっと直してくれた。

『さっき柚さんは、感情が切り離せたらと言っていました。結局人間は生きていると同時に感情を持ち合わせている生物なので切り離すのは無理だと思います』

『そう・・・だね・・・』

『理性で感情のコントロールくらいは出来る様にならないとですが・・・私はあまり得意ではありません。でも、それが"生きている"という事なのではないでしょうか?』

『思うんだよね。感情を捨てたら・・・何が得られるのか?って』

ラトは少し考えると
『それは、生きているうちには分かりそうにありませんね』
と呟くように答えた。

柚月は返事をせずにラトの腕の中で静かに息をして、うとうととしていた。
『柚さん眠いですか?』
『ん・・・』
『もしかしたら、感情をなくすという事は眠る事に似ているのかもしれませんね?』
ラトは優しく柚月の頭を撫でた。

『おかえりなさい。主様』

『ん・・・今、時間何時?』
柚月は手元にあった携帯をを見ると15時だった。
『変な夢を見たな・・・』
そう思い身体を起こすと足に違和感があり、シーツの感触がない。

さっと布の擦れる音がする。

『・・・?』

柚月は不思議に思い足に目をやると、痛みはないのに両足に包帯が巻かれている。

『え?』

柚月は包帯を取り、傷口がないか確認するが何処にもそんなものはなかった。

夢?だったんだよね?
ピンク色の長い三つ編みの人、湖・・・なんの話をしていたんだっけ?

──・・・

柚月はその後、夜の仕事を辞めたり、戻ったりをし、最終的には昼間の仕事をする事になった。

それは年齢的なモノもあったが、一番の理由は自分には合わない世界だと分かっていた為だった。

煌びやかに見える世界程、影では血が滲むような努力が必要になるし、言葉では言い表せない黒より真っ黒いモノを目にする事になる。

そうでもしないと輝けないのだと。少なくとも柚月にとっては、そう言う世界であった。

世の中には天職という言葉があるけど、柚月自身はどうやらそれには当てはまらなかったようだ。

『柚月さん。明日お休みですよね?』
『はい♪ゆっくりさせてもらいますね』

ココは、柚月が口を開かない限りは、かつて血の滲むような努力をしていたと知る人はいない。

普通でなかった日常を送っていた人間が、普通の日常を演じてるだ。

───職場を後にした帰り道の事だった。

黒い猫に出会い、金色の指輪をはめると懐かしい人物に会う事になる。

『はじめまして。主様』
『・・・ラト?』
ラトはシーっと人差し指を柚月の唇に当て、耳元で小さな声で囁いた。
『おかえりなさい。"柚月"さん。会いたかったですよ?』
クスクスと笑うラトからは、あの懐かしい女性の香水の香りがした。

おまけ♪

という訳で、ラトのお話をまた書いてみましたヽ(・ω・)/

最近は専ら地下の執事さん達の素材集めです。

なかなか集まらないんだ・・・これが・・・。

最近考えたのが、ラトはMMORPGのPTに組み込むんだったらどの立ち位置かな?と思って考えてみました。
おおよそ、言わずともがな・・・前衛。で短剣職。軽装備なんだろうなとか思ったり。

回避めっちゃ上げとくと強そう
言うまでもなくDEXも。

短剣2刀ってどんなゲームでもそうなですけど、強い人が多いイメージ

あぁぁ・・・早くラトの思い出を全開放したい(*゚Д゚)!!
最後まで読んで下さってありがとうございました♪ゆいなでした☆

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